昨年5月23日から25日にかけて東京で開催された日本経済新聞社主催のアグサム/アグリテック・サミットでは、海外のスタートアップ、アグリテックコンサルティング企業、投資家と日本の食品・農業企業、IT企業、銀行、政府関係者などが一同に会しました。
日経が主催する3回目のスタートアップイベントで、アグリテックと「革新的な技術がいかに農業と融合して未来に影響を与えうるか」に焦点が当てられました。数多くの参加者が集まり、3日間で大規模なシンポジウム、ワークショップ、イノベーションステージが行われました。
このイベントの魅力は、アグリテックの世界でよく知られた国際的なプレイヤーを日本に招いた点です。その多くは初来日で日本のアグリテックまたは食品イノベーション市場についてあまりよく知りませんでした。
資金提供者として、あるいは食品・アグリテック分野のイノベーションの源泉としての日本のポテンシャルを考えれば、このイベントは参加者(弊社見積もりによれば8割が日本人)がこれら業界のリーダーから直接話を聞く重要な機会を提供したと言えます。米国及びEUからの主要な参加者には、 AgFunder、Rabobank Start-up Innovation、RWA/ Agrotech Innovation Labが含まれました。イスラエル、インド、シンガポール、ベトナム、オーストラリアからもスピーカーや出展者が参加しました。
今回のイベントでは、弊社の日本のクライアントやパートナーの関心を集めている主なトピックについていくつかの洞察を得ました。
- アグリテックはホットな話題だがどこへ向かっているのか?「アグリテックバブル」はあるのか?
- 日本のアグリテック産業や投資家の間で最も関心を集めている技術は何か?
- 日本の投資家はアグリテック分野で今後どのような役割を果たしていくのか?国内外の期待と現実とのギャップはどこにあるのか?
以下ではイベントの概要と弊社の所感を紹介します。
アグリテック投資はどこに向かっているのか?
このイベントはアグリテック業界の多くのホットトピックのショーケースでした。いくつかのベンチャーキャピタルと投資顧問が、向こう4〜5年で注目すべき重要な分野についてのアイデアを披露しました。
- First Green Partners のDoug Cameron氏は、食品廃棄物、タンパク質、都市型食品(垂直農法に限らない)、健康な土壌、より良い除草剤、水問題などに触れました。
- AgFunderのRob LeClerc氏は、中国やインドなどの新興市場におけるロボット工学とデジタル農業/スマートフォンを活用した農業に注目しています。 AgFunderは独自の投資ファンドを立ち上げようとしており、今後のトレンドにどのように作用するのか興味深いでしょう。
- シカゴを拠点とするS2G VenturesのSanjeev Krishnan氏は、より高いトレーサビリティを求める圧力という意味でのサプライチェーンへのソーシャルメディアの影響、ほぼすべての食品小売カテゴリーにおけるメガブランドの衰退、ミレニアル世代と高齢消費者のマーケットパワーなど、いくつかの社会・人口問題について指摘しました。
- オーストラリアのRWAのAgro Innovation Labは、EUのアグリテックイノベーションのトレンドとして、1)スマート農業(M2M、IoT、資源とコストの最適化)、 2)灌漑(特にヨーロッパでは夏が暑くなり、冬は雨が少なくなっている)、 3)都市農業、 4)革新的ビジネスモデル(e-コマース、機械シェアリングなど)を挙げました。
興味深いのは、「未来」が特定のタイプの製品や技術としてではなく、現存する技術が新しい市場や社会の動向に適応し、重要な環境問題に適用されていく過程として定義されている点です。
フードテクノロジー:代替タンパク、分子生物学と日本市場
代替タンパクと食品原料の多様性は、日本の多くの参加者にとって特に興味深いものでした。例えば、YnsectやGo-Terraのような昆虫タンパクを取り扱う新興企業がそうです。彼らは食品市場で昆虫タンパクをマーケティングすることにはまだ課題があるとしつつ、養殖産業にとっては昆虫タンパクが魅力的な選択肢であることを提示しました。すでに世界中で消費されている水産品の50%近くが養殖によるものであり、養殖業は日本にとっても重要な産業です。一方、現在主流となっている天然魚の小魚などから養殖魚の餌となる魚粉を加工する方法は、成長する養殖産業にとって持続可能とは言えません。これに対し、昆虫タンパクは魅力的な選択肢です。
さらに、MiraculexやMycoTechnologyは糖質を削減する天然のバイオテクノロジーを提供し、Algama社は高タンパクの微細藻類を提供しています。食品技術の革新がすでに始まっており、また高齢化が進んで食品メーカーが高齢の消費者層の健康ニーズに訴える新製品を開発するよう迫られている日本からの参加者にとって、これらの食品技術は特に興味深いようです。
投資戦略:アグリテック投資における日本の位置付け
アグリテック投資の専門家は、この分野により多くのシード及びシリーズAの投資が行われることに対する期待を表明しました。大規模で成熟した(したがってリスクの低い)企業の多くは既に十分な投資を得ていると言われています。
しかし、日本の投資家(大手商社やサミットに出席した銀行を含む)は、リスク許容度が低いことで評判が悪いと言わざるを得ません。日本の伝統的な投資家には、アグリテック分野に小規模なシード投資を行うための資金や経験豊富なチームはほとんどありません。
日本の投資家に対しては、初期の段階におけるシード投資やインキュベーション、アクセラレイションベンチャーへの関与が少ないという批判も聞かれました。弊社が話しをしたベンチャーキャピタル2社は、日本の投資家がイノベーションを促進することには関心がなく、後期段階での投資しかしないというイメージのため、パートナーとしては検討していないと述べました。
このイメージが全く正しいとは言えないかもしれませんが、こうしたイメージが日本の投資家と海外のパートナーとの間の潜在的に興味深いパートナーシップの発展に影響していることは否めません。
世界中の投資家は現在、アグリテック分野への投資が、期待しているようなリターンを生み出すことができるというエビデンスを探しています。 AgFunderは、アグリテック業界はまず第1ラウンドの投資について、少なくともいくつかの成功事例を目にする必要があると指摘しました。そうでなければ新しい投資家を引き付けることは難しくなります。そして、成功事例がなければ、The Climate Corporation(モンサントが買収)が10億ドルという評価を得たのは、アグリテック業界では引き続き例外ということになるでしょう。
日本開催の今後のアグリテック・サミットへの期待
海外のプレイヤーにとって、今回のアグサム/アグリテック・サミットの主眼はシード投資、イノベーションとスタートアップでした。一方、日本の出席者、特に大企業からの出席者は主に中規模から大規模な投資に慣れ親しんでおり、早期段階のプロジェクトをサポートすることにはまだ懸念を抱いています。他の大規模な日本企業は、ワークショップで発表した企業も含め、内部革新(クボタ、富士通など)に注力しているようです。
弊社は、これらの若干隔たりのある世界をつなぐチャンスを増やしたいと考えています。例えば:
- スタートアップ企業に対する投資経験を有する日本の大手企業も議論に招き入れる(農産部門に限らない)
- より経験豊富で、投資により成功した米国企業(Farmers Network、FarmLogs)を招待し、スタートアップから中規模企業に成長するまでの過程について議論する
- 日本の農業・機械大手のカウンターパートとなるようなグローバルメジャーを招き、外部もしくは内部技術の初期から成熟段階までの開発経験を共有する
農業・食品技術は特定の市場や言語に限定されるわけではありませんが、国によって農業業界が直面する課題や投資家の期待に相違があることは事実です。日本市場特有のモデルやチャレンジと、海外における成功事例や教訓をより深く比較して議論することができるアグリテック・サミットが、今後数多く開催されることが期待されます。
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