昨年東京で開催されたアグサム/アグリテック・サミット(日本経済新聞社主催)には、世界中からアグリテックとフードテクノロジーの新興企業が集まりました。しかし、開催国である日本のスタートアップ企業は、サミットのハイライトの一つであったにも関わらず、英語の情報が少なかったため、やや注目を集め損ねたと言えるかもしれません。

通常、アグリテックの世界で日本と聞いて想起されるのは水耕栽培技術(植物工場)とロボット/ドローンです。これは驚くべきことではありません。日本は、3つの密集した地域(東京 – 横浜、大阪 – 神戸 – 京都、名古屋)に、国民の約50%が住んでいる国です。地方では農家の数が急激に減少し、農地はますます耕作放棄地となり、日本の農家の平均年齢は66歳になっています。また、日本の食糧自給率は今や40%以下です。

日本の技術、工学、機械、ロボット産業は、農業生産の減少、農家の高齢化、食糧安全保障など、日本のホットな課題に対して解決策を提供すべく、アグリテックの研究開発にますます積極的に取り組んでいます。 スプレッドミライなどの企業に代表される植物工場や、大学や研究機関、ヤマハ、富士通、パナソニックなどの企業で開発されているロボットやドローンが注目を集めています。

しかし、植物工場とドローンは日本の唯一の技術革新ではありません。以下では、昨年のアグサム/アグリテック・サミットに出展した興味深い日本のスタートアップ企業3社を取り上げます。

アドダイスのビー・センシング

ビー・センシング は養蜂家が蜂の状態を遠隔監視することを可能にするIoTセンサーデバイスを提供しています。養蜂家はスマートフォンアプリにより、巣箱の温度や湿度、活動しているミツバチの状態などを確認できる他、アラートを受けとったりメモを記録したりすることができます。ミツバチの巣箱は辺地に置かれることが多いため、養蜂家が毎日訪れることは困難です。このIoTセンサーシステムは、養蜂家を遠方への絶え間ないパトロールから解放することによって、養蜂業の生産性を高めることが期待されています。また、ミツバチの健康状態の変化にタイムリーに反応し、養蜂家が遠くの養蜂場の状態を心配することもなくなります。また、蜂蜜の生産データを記録して、蜂蜜の味や色合いの違いに益々関心を寄せる顧客と共有することもできます。

ビー・センシングの特許技術は、伊東大介が設立し、2017年2月に発売された週刊東洋経済で日本を変えるトップ100ベンチャーの一つに選ばれたアドダイスと、広島の革新的な養蜂家である松原秀樹とのコラボレーションによって生まれました。

ビー・センシング技術はアグリテックの世界ではニッチ産業であるかもしれませんが、こうした新興技術は非常に重要な産業に役立つことが期待されます。 FAOの統計によると、蜂蜜生産は主に中国、北東ヨーロッパ、米国に集中しており、世界で約120万トンです。養蜂業は高価値産業で、例えば天然蜂蜜の米国小売価格は約5-7US $/ポンドで、プロポリスのような蜂の副産物はさらに高価です。これらの製品に加えて、ミツバチ産業自体も「授粉」という非常に重要な経済的価値を有しています。

この高付加価値産業への関心が高まる中、英国、米国、ブルガリアなど、世界中でミツバチの遠隔モニタリング技術が数多く開発されています。

Kisvin Scienceの樹液流センサー

Kisvin Scienceの樹液流センサーは、醸造用葡萄栽培およびワイン製造業界をサポートするために開発されました。日本は世界ではビールや日本酒で有名かもしれませんが、実際には山梨県などを中心に拡大するワイン産業を持っています。樹液流センサーはブドウの茎の熱および土壌湿度をモニターするものです。

共同設立者の西岡一洋は、博士課程在籍中に樹液流センサーを製造するNissy Instrumentsを設立しました。その後、山梨の醸造用葡萄栽培を改善するため、2人の葡萄農家(i-vinesの池川仁とKisvinワイナリー創設者の荻原康弘)とチームKisvinを創設しました。彼らは10年前から醸造用葡萄生産に樹液流センサーを使用しています。

協同農場の数が増えるにつれ、西岡らは自社ブランドのKisvinワインをリリースしました。さらにチームKisvinは世界中の醸造用葡萄農家とワイナリーを支援するため、2015年にKisvin Scienceを立ち上げました。最初の新しいターゲット市場はカリフォルニアです。

市場には既にいくつかの樹液流センサーがありますが、Kisvin Scienceは、最先端の印刷技術、西岡と彼のチームの植物生理と醸造用葡萄栽培に関する総合的な知識によって達成される低コストが強みであると感じています。Kisvin Science は次の資金調達を目指しており、日本や米国のファンドを検討しています。

河内町の米ゲル

最も画期的な発明はアクシデントによって生まれることもあります。杉山純一は国立研究開発法人農研機構の研究員時代、期せずして米ゲルという新素材を開発しました。調理した米を保水能力の高いゲル状のペーストに変える革新的な方法を見つけたのです。杉山は研究所を退職後、茨城県稲敷郡河内町の稲作農家と大手農業機械メーカーのヤンマーの協力の下、この製品の商業化に力を注いできました。

杉山の米ゲルは、滑らかな白いペーストであり、顧客のニーズに応じてあらゆるレベルの硬度または密度で製造することができます。この製品は米と水のみから作られているので、主要なアレルゲンは含まれていません。

この米ゲル食品技術は、米粉を使用する際に国内外の食品産業が直面してきた2つの大きな問題に対処しています。第一に、米粉は水の吸収能力が低いため、ほとんどの米粉パンやケーキは吸湿性を改善するために小麦粉を添加しなければなりません。第二に、米粉は通常、原料となる米の生産コストが高いため、小麦粉や他の穀物粉よりも高価です。

これに対し、米ゲルは水分保持能力が高いため、パン製造業者は一部の消費者にとってアレルゲンとなる小麦粉を使用しないで済みます。しっとりかつふわふわした食感を目指すケーキや菓子製造業者にとっても米ゲルは魅力的なのです。

また、河内町は高収量品種であるアミロース(常温で固体ゲルを形成する澱粉成分の一種)が多い米を使用しているため、競争力のある価格で米ゲルを生産することができます。主食用以外の高アミロース米生産は現在、政府の減反政策の下で補助金を受けることができ、河内の米ゲル製造が米粉よりも低コストを維持する一助となっています。

実はメロスが河内の米ゲルに遭遇したのは今回が初めてではありません。昨年、メロスのLucia Vancuraが、NHK WorldのBiz Buzz Japanのパネリストとして米ゲルを紹介しましたが、その際米ゲルはまだR&Dの段階にありました。このため、今回米ゲルの製品化の進捗状況を確認することができたのはなおさら喜ばしいことでした。この製品は、米粉が小麦粉の主要な代替品として使用するには高価すぎる世界のベーキング市場、特にグルテンフリー市場で機会を得ることが期待されています。