コロナウイルスが世界を直撃しており、その勢いはとどまるところを知りません。日本で確認されたコロナウイルスの感染者数は、他国に比べて比較的少ないものの、日本経済への影響は大きく、ここ数ヶ月の間に外食産業や小売業に大きな変化をもたらしています。これらの変化の多くは、産業全体に長期的に影響を及ぼす可能性が高いと見られます。


ファミリーレストランチェーン「サイゼリヤ」では、デリバリーに加え、スタッフと客との交流を減らすための取組を実施

日本ではフードデリバリーがブームに

外出を控える人が増える中、Uber Eatsなどのフードデリバリーアプリを利用する人が増加しています。Uber Eatsのユーザー数は今年1月には約160万人でしたが、3月には200万人近くに急増し、その後の数ヶ月でさらに増加しました。他にも出前館やdデリバリー、楽天デリバリーなどのデリバリーアプリがあり、デリバリー市場の競争は熾烈を極めています。飲食店の宅配サービスを利用する人が増えていることを受けて、サイゼリヤも今月から宅配を開始することを決めました。サイゼリヤの社長は、昨年末の時点で「デリバリーの提供は検討していない」と発言していましたが、コロナウイルスの影響は企業方針を180度転換させるほど甚大でした。

食品の売上全体に占めるネットスーパーの割合は限られていますが、コロナウイルスがもたらした消費者の購買習慣の変化がネットスーパー業界に追い風となっているようです。最近の調査によると、ネットスーパーの利用者の約6割が「ここ3カ月間(2020年1月~3月)で利用頻度が増えた」と回答しています。利用者数の増加に伴い、小売業はネットスーパーに力を入れ始めています。小売最大手のイオンは、来年初めまでにネットスーパーの売上高を前年比50%増とする目標を発表しており、これが達成されればネットスーパーを通じた食品の売上高は店頭の食品売上高の約1割にまで成長する見込みです。スーパーマーケット大手のイトーヨーカドーも、ネットスーパーアプリの本格運用を開始したばかりです。これらマーケットリーダーの動きは、他のプレイヤーに刺激を与え、ネットスーパー業界に大きな変化をもたらす可能性があることから今後の動きが注目されます。

感染症対策が外食・小売業を変える

現在のところ、外食・小売業に対して日本政府が義務付けている感染症対策はなく、各飲食店や小売店が独自に消費者に安心して食べてもらうための方法を模索しています。

外食業界では一般的に、テーブル間にアクリル板を設置したり、利用客同士が近づきすぎないように椅子の数を減らしたりするなどの対策が取られています。サイゼリヤでは、接客を最小限にするため、利用客に注文用紙に記入してもらうように工夫しています。全国に約40店舗を展開する居酒屋チェーンKICHIRIは非常に入念な対策を取っています。入口にはウォークスルー式の除菌ゲートが設置され、客が通過すると、ゲートの両端に設置された4本のパイプから次亜塩素酸水が全身に噴霧されます。入店客数はモニターで確認され、利用客はテーブル番号が書かれた店内地図を手に取り、自分で席に移動します。そして、スマートフォンを使ってテーブル上のQRコードをスキャンし、ウェブサイトにアクセスしてメニューを確認しながら料理を注文します。

小売業界でも変化が起きています。ソーシャルディスタンスを保つため、レジ前の床には一定間隔で線が引かれています。また、レジの前には、店員と利用客の間の感染を防ぐために透明なビニールシートが吊るされています。しかし、最も大きな変化は、キャッシュレス決済への急速な移行です。日本政府はコロナウイルスが出現する前からキャッシュレス決済システムを推進していましたが、日本の現金主義はなかなか変わらず、アジアの他国に比べてキャッシュレス決済に関して遅れをとっていました。ところが、コロナウイルスの影響により、現金との接触を避けるため、キャッシュレス決済を利用する人が増えています。

居酒屋の新ビジネスへの参入

コロナウイルスはあらゆる飲食店に影響を与えていますが、特に居酒屋への影響は甚大です。居酒屋チェーンの中には、新しいビジネスに挑戦するところも出てきています。例えば、日本で2番目の規模を誇る居酒屋チェーンで、様々な居酒屋ブランドを展開しているワタミは、人材派遣事業に参入しました。ワタミはコロナの影響で一時期店舗を閉鎖し、多くの従業員が働き場を失っていました。そこで同社は、そうした従業員・正社員780名、アルバイト10,000名から希望者を募り、人手不足に悩むスーパーや農場、介護施設などに人材を派遣することにしました。また、首都圏を中心に展開する居酒屋チェーン塚田農場を運営するエー・ピーカンパニーは、塚田農場の売上が大幅に落ち込んだため、一部店舗を塚田食堂という定食屋に改装しました。

JR東日本による無人コンビニの展開

JR東日本は今年3月、山手線の新駅「高輪ゲートウェイ駅」に無人コンビニをオープンしました。無人コンビニのメリットは、店内に設置されたカメラで利用客が手に取った商品を識別するため、店員と利用客が対面する必要がないことです。出口では、購入した商品の詳細がタッチスクリーンに表示され、プリペイド式の交通カードを端末にかざすだけで決済が完了し、出口のゲートが開きます。同社では、店舗での人との接触を減らしたいというニーズの高まりを受け、4年以内に100店舗への展開を計画しています。

コロナウイルスがすぐに収束する気配がない中、日本の外食・小売業界には、今後も市場の変化に対応したイノベーションや迅速な対応が求められていると言えます。