バイオスティミュラント市場が国内で拡大しています。近年は肥料メーカーのみならず、農薬や種苗メーカー、施設園芸資材メーカー、食品メーカーなどがバイオスティミュラントの開発・販売を拡大しています。バイオスティミュラントは日本語に訳すと生物刺激剤です。作物の収穫量は、病気が害虫などの生物的ストレス、また気候や土壌のコンディションなどの非生物的ストレスによって大きく左右します。バイオスティミュラントは後者の非生物的ストレスを抑える資材で、地球温暖化により増加している非生物的ストレスに対するソリューションの一つとして大きく注目を浴びています。元々は化学農薬・肥料の使用規制などを背景に、欧州を中心に市場が広がりました。現時点では、バイオスティミュラントの定義はまだあいまいで、NPK等の肥料分がほとんど含まれていないもののみ指すケースもあれば、広くアミノ系液肥等を含める場合もあります。

メロスでは、日本でのバイオスティミュラントの流通、使用の実態を調査するため、資材流通業者と農家へそれぞれインタビューを行いました。

流通業者では、近年メーカーからの売り込みが増えていることから「バイオスティミュラント」の認知度は高く、インタビューをした全ての会社で認知されていました。流通業者によれば、バイオスティミュラントは比較的利益率が高く、気候変動や農作業安全性の観点からの農業の将来像を考えた上で将来性がある商材とのことでした。一方、現時点では販売先が限られるため、販売金額が小さく、またバイオスティミュラントは商材ごとの違いや効果を明確に示すのが難しく、営業担当への教育が簡単でなく、そして更に顧客農家に各商材のメリットを理解してもらうのに時間がかかるとのことです。

農家へのインタビューでは、「バイオスティミュラント」を聞いたことのある農家はごくわずかで、認知度は非常に低かったです。ただし、こだわりの商品を使っている農家、特にトマトやイチゴなどの施設園芸では、アミノ酸資材、腐植酸資材、藻類抽出エキスなどの普及は徐々に広がっているようで、産地によっては2~3割程度の普及率になるようです。露地でも、キャベツやレンコンなどの作物で、「定植後に、台風など降雨過多で根の成長が悪い時に使っている」、「作物の糖度にこだわっており、酵素等に加え、アミノ酸の葉面散布等を始めた。結果として、市場での評価が高い産品になり、使い続けている」など水害対策や品質向上のためにこれら資材を使用している農家がいました。また、一部の農協では、積極的に勧めている事例があるようです。ただ、各都道府県の普及所では、コストの問題もあって、まだ積極的にバイオスティミュラントの使用を勧めている状況ではなさそうでした。一部、農業資材の情報収集に熱心な農家から、利用が少しずつ拡大している状況と思われます。

メロスの簡易的な調査の結果、現在、広い意味でバイオスティミュラントに含まれる商材は50種類ほどあり、ハイポネックス、サカタのタネ、生科研(ローソン傘下)などの様々なプレイヤーから販売されています。海外のメーカーも参入をはじめており、今年に入り米化学大手のFMCが「ストラクチャー」と呼ばれるバイオスティミュラントの販売を日本で本格的に開始しました。また、2017年には味の素がベルギーの子会社を通じてスペインのAgro2Agri を買収、2020年10月にはシンジェンタがイタリアのバイオスティミュラント大手Valagroを買収するなど、M&Aも活発化しています。2018 年 1 月にわずか8 社でスタートした日本バイオスティミュラント協議会は、2020 年 6 月現在、正会員 26 社、賛助会員 57 社へと拡大しています。日本で盛り上がりを見せているバイオスティミュラント市場が今後どのように広がっていくか、引き続き注目していきたいと思います。