日本インパクト投資ネットワーク (J-IIN)で2020年11月24日に開催した第3回ウェビナー、「インパクト事業の現場からインパクトの評価・マネージメントを考える」を、弊社(株)メロスにてホストしました。
J-IINは、「Business×Impact」をテーマに、昨年末から活動しており、弊社メロスも創立メンバーの一員として参加しています。J-IINでは、「インパクト投資」が国際的に新しい投資戦略としての認知度を上げていく中、日本では社会貢献的で非営利といったイメージが依然として残っており、また国内問題へ興味が集中していて国際的な舞台で日本のプレゼンスが小さいことを、課題として認識しています。このため、日本の起業家の方々、投資家の方々、双方が集まって、グローバルな状況を視野に入れつつ、フランクにコミュニケーションができる場を作るというのがJ-IINの目的です。
農業・食品分野は、国際的にはインパクト投資で最も注目を集めており、食・農にかかわる起業家の資金調達の重要な手段となってきましたが、日本での注目度はまだまだ低く、弊社では引き続き、農・食におけるインパクト投資のコンセプトの普及に努めていきます。
J-IIN第3回ウェビナー「インパクト事業の現場からインパクトの評価・マネージメントを考える」
J-IIN第3回目のウェビナーは、「インパクト事業の現場からインパクトの評価・マネージメントを考える」をテーマに、20人程度の機関投資家、VCファンド、起業家、コンサルタント等をお招きして開催しました。今回は、ウニノミクス CEO 武田ブライアン剛様、リンクル―ジョン 代表取締役の黒柳 英哲様のお二方から、起業家としてインパクト投資との向き合い方、ご自身のビジネスにおけるインパクト評価指標の設定の現状と課題について、プレゼンテーションをいただき、それを基に参加者とのディスカッションを行いました。
ウニノミクス CEO 武田ブライアン剛史様「ウニ畜養による海藻の森の再生」
ウニノミクスは、ウニの陸上畜養による藻場の再生を目指し、日本、米国、ノルウェー等の各国で活動を展開する環境スタートアップです。日本を含む世界中の沿岸地帯で、ウニの捕食者であるロブスターやカニ、タラ等の魚介の過度の漁獲によって、ウニが爆発的に増加しています。これにより、ウニの食害によって藻場が減少しており、それにより豊かな生態系が失われるだけでなく、海藻による二酸化炭素の吸収ができず、地球温暖化の一因ともなっています。また、大量発生してしまったウニは、海藻を食べつくして身がやせ細り、そのままでは食用にすることができません。そこで、ウニノミクスでは、こうした対象発生したウニを陸上の水槽に隔離し、自社開発の餌を与え、畜養する事業を行っています。畜養されたウニは、市場の評価も高く、日本では高価格での出荷が可能となっています。一方、ウニを取り除かれた沿岸では、数か月後には海藻が繁る藻場に戻り、生態系が復元していきます。
リンクルージョン 代表取締役 黒柳英哲様「新しい経済インフラをつくり、排除される人のない世界を実現する」
リンクル―ジョンは、途上国における貧困層の人々の機会創出のため、ファイナンシャルインクルージョン(金融包摂)とインクルーシブビジネス(BoP)ビジネスに取り組む会社で、現在はミャンマーで事業を実施する社会的ビジネスのベンチャーです。現在の主な事業ドメインは二つで、一つ目はミャンマー国内の様々なマイクロファイナンス機関向けに顧客・業務管理を支援するオンラインシステムの提供で、二つ目はマイクロファイナンスの顧客でもある飲食品等を扱う小さな商店に対する卸売・配送サービスの提供です。マイクロファイナンス事業では顧客機関を通じて既に27万人へのアクセスがあり、卸売・配送サービスではサービス開始後1年半で既に600店超の零細店と契約しています。このほか、パイロットプログラムとして、電池式LEDの普及、職業訓練校の支援、低価格スマホの提供、無料情報誌の配布等も手掛けています。将来的には、二つの主力事業で築いたネットワークを活用し、貧困層を包括したプラットフォームを構築して、そこを通じて教育や情報、エネルギーなど様々なサービス提供を可能とする基盤にすることが目標です。
起業家お二人にとってのインパクト投資、インパクト評価とは?
インパクト投資に対しては、ウニノミクス、リンクル―ジョンのお二方ともに非常に注目をしています。特に、ウニノミクスは海洋環境の改善、リンクル―ジョンは社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)といった、環境・社会へのインパクト創出そのものが事業目的となっています。お二人によれば、海外の投資家は、事業によって創出されるインパクトがどのように明確に数値化されるか、またそのインパクトがどれくらい大きいスケール感をもって実現されるのか、という点に高い興味を示しているとのことです。また、通常のベンチャー投資ファンドであれば3-5年の時間軸になるところ、インパクト投資であればベンチャー投資に対しても10年以上の時間軸をみて、インパクトの実現を支援する考えがある点が利点だそうです。一方、日本の場合は、一部で一般投資家向けの試行の例などあるものの、機関投資家、ベンチャー投資家ともに、まだ、インパクト投資に対する認知が低く、インパクト投資の観点を前面に出すことに対してまだ躊躇いがある、といった落差があるようです。
インパクトの評価指標とその課題
インパクトの評価指標については、ウニノミクスの場合は、海洋の藻場の復活による炭素貯留の効果について、学術的な面から、まだそれを測定したり、評価するような研究が十分に行われていないので、その点がネックになっているという課題が挙げられました。一部の研究によれば、海洋の藻場1haは、熱帯雨林の5.4倍の生態系サービスを提供しているという結果があるそうですが、海洋の藻場の研究は、陸上の森林の研究に比べて大きく遅れています。一方、リンクル―ジョンからは、例えばSDGs5「ジェンダー平等を実現しよう」という目標に対して、インパクト評価指標を示したいのだが、同社がサービス提供をしているマイクロファイナンスの末端利用者の女性割合はすでに99%であり、それの割合をさらに向上させること自体は事業の目標とは合致しない、といった技術的な課題が挙げられました。事業の目指す方向性を見据えつつ、評価指標の設定をどのように行えるかというのは、まだまだ国際的にも試行錯誤が続いている段階で、日本でも適切なサポートが必要だと考えられます。
参加者からも、そもそも社会的インパクト創出を狙う事業を起業した動機や、評価指標の設定と国際的な潮流、インパクト投資の日本の動向についてなど、さまざま質問や課題提起がありました。引き続き、J-IINをベースに、コミュニケーションの場づくりや、情報発信を行っていきます。ご関心のある方は、ぜひご連絡ください。
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