日本インパクト投資ネットワーク (J-IIN)で2021年2月24日に開催した第4回ウェビナー、「南アフリカでのインパクトビジネス成長の可能性」を、弊社(株)メロスにてホストしました。

日本インパクト投資ネットワーク(Japan Impact Investment Network (J-IIN))は、「Business×Impact」をテーマに、昨年末から活動しています。弊社メロスも、創立メンバーの一員として参加しています。

J-IINでは、インパクト投資が国際的に新しい投資戦略としての認知度を上げていく中、日本では社会貢献的で非営利といったイメージが依然として残っていること、国内問題へ興味が集中していて国際的な舞台で日本のプレゼンスが非常に小さいことを、取り組むべき課題として認識しています。

このため、日本の起業家の方々、投資家の方々、双方が集まって、グローバルな状況を視野に入れつつ、フランクにコミュニケーションができる場を作るというのがJ-IINの目的です。

特に、国際的には農業・食品分野がインパクト投資で最も注目を集めていますが、日本での注目度は低く、弊社では引き続き、農・食におけるインパクト投資、インパクトビジネスのコンセプトの普及に努めていきます。

第4回ウェビナー「南アフリカでのインパクトビジネス成長の可能性」

J-IIN第4回目のウェビナーは、「南アフリカでのインパクトビジネス成長の可能性」をテーマに、15人程度の機関投資家、VCファンド、起業家、コンサルタント等をお招きして開催しました。

第4回ウェビナープログラム:

1) 「南アフリカにおけるインパクト投資」
発起人の一人、南アフリカに在住のThree Arrows Impact Partners代表 中川沙和氏より、南アフリカを中心とするアフリカにおけるインパクト投資の現状と社会企業を取り巻く状況についてイントロダクションを紹介。

2) 「アフリカでの挑戦とそのインパクト」
エンジェル投資家としてアフリカの起業家を支援しつつ、自身でもラストマイル物流のスタートアップを立ち上げられたアンドアフリカ株式会社の室伏陽氏をお招きして、南アフリカでの現場での起業と投資活動における体験から、投資を通じた社会貢献の意図と経済的リターン追求のバランスについての考え方をご共有いただきました。

「南アフリカにおけるインパクト投資」Three Arrows Impact Partners代表 中川 沙和 氏

アフリカでは2015年から2019年のインパクト投資成長は7%にとどまり、世界から見るとまだ低い成長水準であるものの、世界のインパクト投資家のうち今後対アフリカ投資を増やす予定の投資家は52%と、今後大きな成長が望める市場と考えられています。

南アにおけるインパクト投資の特徴は、1)Black Economic Empowerment(BEE)として黒人経済力強化政策が導入されており、南アのインパクト投資家にとっては欠かせない社会的インパクト指標になっていること、2)もともと失業率が高いところに新型コロナの影響が重なり、2020年第4四半期の15-24歳の失業率は63%であり、雇用創出が最も大きな社会課題となっていること、3)地域密着の非営利組織に対する高い政策的優遇措置のため、営利企業への転換によるインパクトビジネスのスケールアップに対するハードルがとても高い、という3点です。

南アフリカでは、特に投資が大規模案件や限られた業界に集中しており、そもそもスタートアップや中小企業への投資が十分ではなく、今後こういった分野への投資拡大が期待されています。一方で、中所得国との位置づけから、国際的な開発金融機関(DFI)からの投資は減少傾向にあり、今後はインパクト投資を志向する一般投資や、財団等のフィランソロピー資金の重要性が指摘されます。ただし、様々な経済指標データの整備と、その透明性の確保が十分でないことが、インパクト投資の拡大を妨げる最大の課題として懸念されています。

最後に具体的な南アにおけるインパクトビジネスの例として、中所得者家族向けの良質な教育機会を提供する「Spark Schools」、インナーシティにおける住宅開発プロジェクトへの資金提供を行う「TUHF」、自社開発の栽培が容易な野菜種子入り生分解性テープを家庭や学校菜園へ普及することによりフードセキュリティ問題への寄与を志す「Reel Gardening」を取り上げました。

「アフリカでの挑戦とそのインパクト」アンドアフリカ株式会社 室伏 陽 氏

室伏氏は、アンドアフリカ株式会社を2017年5月に創業、南アフリカを拠点にベンチャー投資支援や新規事業創出を行っています。会社のミッションは、日本からアフリカに対するエクイティ投資と技術移転を行うことによって、アフリカに新たな産業を創出し雇用を生み出しながら、日本には長期的な財務的リターンをもたらしつつ新たな成長機会を提供することです。

事業の柱は、1)Zen Venturesというアフリカ現地のスタートアップと投資家をオンラインでマッチングするサービスの運営(豊田通商、オリックス、サムライインキュベート、伊藤忠等がパートナー企業/投資家として登録)、2)エンジェル投資家としてこれまで大学生の就業機会創出を図るJoboxや、アフリカの中所得者層を対象とした投資プラットフォームFrancに投資、3)日本の投資家のアフリカ投資支援で、例えばアフリカ・キャピタル・パートナーズ合同会社のアフリカでのアグリテック投資ファンドの支援、の3点になります。

これに加えて、ECD(Easy Collect & Drop)というラストマイルデリバリービジネスを創業し、今年9月から実証フェーズを開始しました。この事業では、スマートロッカーの設置と自社ドライバーの確保により、アフリカで渋滞や未整備道路、住所特定の困難さなどを抱え、特に高コスト構造になっているラストマイル配送を改善するとともに、同時に配達員の新型コロナ予防を実現することを目指しています。

室伏さんは、起業家としてインパクト投資家を惹きつけるという立場と、また投資家としてインパクト投資を検討するという立場の両方から、現在自分の意図している社会課題解決のストーリーと、一方でインパクト投資の現状に対しての率直な考え・捉え方の難しさについての意見を挙げて頂きました。特に、アフリカで初期資源が無い人にも平等なチャンスを与えることができる社会構築へ貢献したいというご自身の強い思いと、その一方で一部のインパクト投資家の意図するごく狭い範囲での社会的インパクトの捉え方への違和感等が指摘されました。

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社会的インパクトの創出は「ふりかけ」か?

参加者のうち、アフリカでビジネスを運営している起業家からは、アフリカでの起業における課題として、日本の投資家から資金提供を受ける際に、アフリカ特有の社会課題に対してなかなか理解を得ることが難しいとの指摘がありました。

日本の機関投資家の間でも、インパクト投資に対する興味は高まっており、多くの機関でインパクト投資に向けた枠組みをつくる試みが始まっています。しかし一方で、日本の投資家の意図と、アフリカ社会で必要とされるインパクトとが上手くかみ合わなかった具体的がいくつか出されました。

また、機関投資家と話をする中での実感としては、やはり投資判断の中では財政的リターンの方に圧倒的に重きがおかれており、社会的インパクトの創出は「ふりかけ」程度の認識しかないケースが多いという声がありました。

Photo of J-IIN 4th Webinar

社会的インパクトの創出が継続的な財務的リターンを生む原動力に

一方、日本でインパクト投資を行う機関投資家からは、自社の取り組みとしては財務的リターンと社会的リターンはそもそも切り離せないものとしてとらえているので、どちらが重要、どちらが先、という見方はしていないという意見が挙げられました。

社会的リターンを意図し、定義して、評価するプロセス自体が、そもそも社会が抱えるペインポイント/課題をより明確に示すことにつながり、それがビジネス機会をより明確にし、新たなビジネスを創出して利益を生む原動力になるという考え方が示されました。

いずれにせよ、ロジックモデルを適切に組み立て、課題を解決するための他の選択肢と比べて、自社のモデルの持つ仮説の優位性を明確に示すことが、まず最初の第一歩、と指摘されました。

投資家とのミスアラインメント

ただし、もちろん投資家とのミスアライメントについては十分気を付けることが必要との指摘も挙げられました。

事業の内容によっては、一般のインパクト投資よりも、より慈善的/フィランソロピー的な性格を持つ資金の方がより上手く合致する場合もあります。あるいは、自身の起業の目的と異なる意図を持つインパクト投資家から資金を得た場合に、ビジネスに適さない余計な指標を求められるなどのケースがあり、そういったミスマッチは事前に避けることが必要です。

個人投資家の関心の高さとSDGs教育との連携

また、他の起業家からは、機関投資家よりも、むしろ日本の個人投資家のほうがインパクト投資や長期的な成長に関心が高いので、IPOやクラウドファンディング等を通じて個人投資家からの出資を募ることができる可能性も指摘されました。

また、それに付随して、SDGsについて小学校・中学校レベルでも教育が広まっており、将来の個人投資家として若年世代に対するインパクト投資教育の持つ可能性についても話が広がりました。

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今回は、J-IINのウェビナーでは初めて、3~4人ずつに分かれたグループ・セッションの機会も設けましたが、参加者間の親しみが増し、より話しやすい雰囲気が出て、好評でした!

メロスでは、引き続き、J-IINをベースに、コミュニケーションの場づくりや、問題発信を行っていきます。ご関心のある方は、ぜひご連絡ください。