2021年12月7日に、第2回メロス農業投資勉強会「ソーラーシェアリングを農業投資から考える」を開催いたしました。
2030年の再生エネルギー供給目標を達成するために、国内外で重要性が増しているソーラーシェリングについて、農業投資としての側面から検討ができないか、農業事業者・金融機関の方々との議論を行いました。
第2回メロス農業投資勉強会では、ソーラーシェアリング/営農型太陽光発電をとりあげました。
千葉エコ・エネルギー株式会社代表の馬上丈司様、及び西村あさひ法律事務所の杉山泰成弁護士にご登壇いただきました。
金融機関や農業系スタートアップ企業、研究機関などから、総勢25名を超える方々にご参加いただきました。
ご登壇・ご参加有難うございます!
ソーラーシェアリング/営農型太陽光発電
ソーラーシェアリングとは、農地に支柱を立てて太陽光発電を行い、設備の下では従来通りの農業を行う、農業と太陽光発電が共存する取組です。
実際に、日本ではソーラーシェアリング事業は2019年度までに2,650件、742haの実績があります。
まだ統計は発表されていませんが、2020年、2021年は申請が急拡大し、2020年推計でおよそ0.4GWほどが稼働している現状です。
従来は比較的小規模な施設が多いですが、2~3ha程度、1MW規模の開発事例も現れ、大規模開発に向けた準備が整ってきました。(一社)太陽光発電協会は本年10月に、2030年度までに農地(耕作地・耕作放棄地)で14GWの野心的目標を掲げています。
また、ソーラーシェアリングの場合の営農は、きのこ類や榊など、日照を必要としない作物が中心となっていましたが、水稲や大豆・小麦、野菜、果樹あるいは牧草など、様々な作物との組み合わせが可能です。
太陽光が一部遮られるので、日照を多く必要とする作物の場合は若干減収になりますが、柑橘類などではかえって日除けや霜害防止などの役割も果たすためか、増収や品質向上につながるケースもあると知られています。
馬上氏によれば、日本では特に、農村地域と都市地域が密接しているため、将来的には、農村地域でエネルギー、食糧を確保し、それを都市地域に流すということができる潜在的な可能性があります。
ソーラーシェアリングの投資を拡大する世界
馬上氏は、ソーラーシェアリングの取り組みは、もともと土地が希少な日本が発祥と述べられています。今日では、世界中で取り組まれるようになり、特にヨーロッパやアジアを中心に取り組みが拡大しています。
メロス欧州事務所のティナ・ペネヴァによれば、欧州の可変施肥やセンシング等で農作業の行程をデジタライズすることを支えるアグリテック企業も、ソーラーシェアリングを組み込んだサービスの提供に力を入れ始めました。
Fitch Solutionsの試算では現在、世界で2.9GWのソーラーシェアリング施設が可動しています。
フランスでは、France Agrivoltaismeが設立され、石油メジャーのTotalは2025年までに500MW規模を目指して投資を拡大中。RGreen Investが約1,500~2,000haを目指してファンドレイジングを行っています。
オランダでも、農業/エネルギー大手のBayWaが、2022年末までに35MWの設備導入を目指すなど、動きが本格化してきました。
イタリア、イスラエル、韓国、台湾などでも、官民の動きが盛んになっているほか、アメリカでも大規模な実証が行われています。
*続報:2022年2月15日の報道では、米国のアイオワ州では、ソーラーシェアリングの拡大に危機感を感じたトウモロコシ農家らが、農地での太陽光発電を規制するよう求める動きを開始しています。
2030年の日本のエネルギー目標に向かって、重要性を増すソーラーシェアリング
先月COP26が閉幕、日本でも1.5℃目標・2050年カーボンニュートラルに向けた動きが加速しています。日本政府も昨年11月には2050年カーボンニュートラルを宣言、第6次エネルギー基本計画など、それを見通した2030年に向けた削減目標や計画が形を見せつつあります。
並行して、ゼロカーボンシティ宣言自治体の増加などの動きもみられます。
農林水産省も本年「みどりの食料システム戦略」を策定、農林水産分野からの排出削減へ向けた取組やイノベーションを支援する方向です。
再生可能エネルギーへの転換が急がれる中、最もシェアが高く、今後の成長が期待されているのが太陽光発電で、現行のエネルギー供給のうち約7%を占めています。
しかし足元では、新規住宅着工は減少して住宅への太陽光パネル設置が低調に推移する一方、野建てに適した用地確保が一巡して難しくなるとともにFIT価格が低下し、事業用の新規開発も大幅に減少、2020年のFIT認定は0.9GWに留まる状況になります。
そういった状況下、今後の太陽光発電推進にあたっては、活用可能な場所として、農地(耕作地・耕作放棄地)が最も重要視されるなかで、ソーラーシェアリング/営農型太陽光発電の推進が不可欠になってきました。
農林水産省は、普及に向けて荒廃農地の単収要件の撤廃や、一時転用許可の期間更新の周知等の見直しを勧めています。
更に、環境省は、2022年度に脱炭素官民ファンドを設立する計画で、そのうちソーラーシェアリング対して120~130億円を投資することを予定しています。
拡大する資金ニーズと供給の難しさ
しかし、2030年目標を実際に達成するためには、環境省拠出の資金規模は、二桁足りないと馬上氏はみています。
他に期待されている洋上風力発電などの再エネ電源は、当初予定よりも計画が大きく遅れており、また太陽光発電も今後住宅や野建てが難しくなっています。
そのような中で、実際に稼働の始まっているソーラーシェアリングの役割は大きく、馬上氏によれば、(一社)太陽光発電協会の野心的目標14GWでも足りず、2030年目標の達成には、少なくとも20~30GWを供給する必要があるといいます。
ところが、大規模な新規案件開拓への資金投入が圧倒的に不足しているというのが問題です。
課題はいろいろあります。
指摘された問題の一つは、FIT後の売電収入の見通しが不透明なこと。また農地からの送電に係るインフラの整備コスト。また、農地の上に設置する支柱や太陽光パネルのリサイクルコストを、事業体がきちんと確保して、設備寿命が尽きた後の処理を適正に行えるかどうか。
中でも、ソーラーシェアリングの新規事業で最も懸念される点が、営農の持続性という課題になります。実際に、営農や農地管理の点で問題を抱えた案件も既に発生している状況です。その点が充分に確保できなければ、事業の継続が担保されないばかりか、環境や食料安全保障も含めた持続的な未来を創造することに逆行してしまいます。
既存の農業法人がソーラーパネルを設置する案件は増えており、金融機関から案件ごとのファイナンスがつくようにはなっています。しかし、大規模な拡大に乗り出す主体は、ごく限られている状況で、特に金融機関側が主体的に動くには、依然として時期尚早との判断のようです。
どうやって解決するか?
日本での農業投資全体の可能性として、畜産や施設園芸は一定程度資金需要があるほかは、農地の集積がうまくいって100ヘクタール程度となると、資金需要がどれくらいまとまるか、また農地の値上がり益からの収益が見込めない中で、農産物からの収益に頼るのでは投資として厳しい面があると思われます。
その中で、ソーラーシェアリング/営農型太陽光発電は、100ヘクタール規模で大規模展開すると、数百億円というかなりまとまった資金需要になりますし、収益としても農作物と売電収入の両方を視野に入れることができます。
ソーラーシェアリングによる収益性のポテンシャルとしては、おおむね1haの水田または畑で年間100万kwh程度の発電電力量が確保でき、全量を売電する場合だと1,000万円以上の売上が得られるようです(10円/kwh想定)。
まずは、営農部分の継続性の担保というブラックボックスになっている要素を、見通すことのできる形にもっていくことができれば、FIT後の収益性の問題は業界共通課題として解決されるべきところなので、道筋ができるのではないかと期待されます。
2030年まであと8年。成功事例をゆっくり待って動ける時間はなくなってきているので、早い動きをインスパイヤして、支援していく体制が求められています。
メロス農業勉強会について
世界的に、SDGsやESG, インパクト投資にお金が集まり、脱炭素社会に向けた動きが加速する中で、農・食は投資家からの注目が高く、また一方で農・食の企業やスタートアップなども、そういった志向性をもった資金をどのように集めてくるかということが重要になってきました。
メロスとしても、興味を持って、グローバルな食農投資に関する情報収集を進めておりまして、その中で、ぜひ、日本でも、グローバルな視点を持った食農投資のエコシステムを構築することに貢献したいと考えるに至りました。
コロナ下ですので、手始めに、オンラインで、関係者のネットワーキングができるような勉強会を開催したいと考え、不定期5回シリーズで実施中です。幸いご好評いただいて、当初、金融機関さんを想定しておりましたが、現在、お声がけする範囲を広げているところです。ご興味がある方はご連絡ください。
第1回メロス農業投資勉強会「日本における農業投資の法的課題」
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