9月14日に開催されたPEI Agri Investor Tokyo Forum 2022のKeynote Panel : Getting the lay of the land: why should Japanese LPs be investing in natural capital with its ESG aspect?に、パネリストとして登壇しました。今年初めて開催されたPEIの農業・森林投資イベント、森林ファンド投資を実際に開始された、あるいは真剣に検討されている金融機関の方が増えており、農業ファンドへの関心も高くなっているのを感じました。面白かったのは:
1 まだまだ、農業ファンドの初歩的な情報が必要~むしろ食と農の世界の需給と将来像がどうなるか?
今回は、農業ファンドとは何か、というようなイントロ的なセッションのパネリストを担当しました。
最初に、農業ファンドのタイプとして、まず大まかにわけると農地ファンド、プライベートエクイティ、プライベートデッドの主に3種類があるとの説明をしましたが、後で参加者の方とお話しすると、そのスライドが一番喜ばれたのかもしれません。
現在、投資の担当をされるチームは、インフラ担当、不動産担当、プライベートエクイティ担当、ベンチャーキャピタル担当など分かれていらっしゃるので、農業ファンドを誰が面倒みるのかというのが、まず一番の難関になるようです。
なので、まだ手付かずのところが多い模様。この2~3年、ようやく数か所くらいのファンド・マネジャーさんからのアプローチがあり、まず話を聞いてみているというような様子のようです。
もちろん農地を保有してそのリース料を得るというシンプルな農地ファンドのモデルもあります。しかし、農業ファンドの面白味は、それだけでなく、農地・土壌・周辺環境のより良い管理に係ったり(サステイナビリティはもちろんのこと、生産性に差が出る)、あるいは集荷・販売・輸出・加工のバリューチェーンの構築、太陽光/バイオマス発電、場合によってはアグリテックなども組み合わせて、高い収益を出すところにあります。
そういったわけで、どの分類(アロケーション)で検討できるのか、だれが担当者になるべきか、ますますとっつきにくさが増してしまっております。なんとか、そこを上手く乗り越えるお手伝いができればよいのですが!
2 土壌炭素貯留、再生可能農業、自然資本などの潮流について、情報発信の強化の必要性
もちろん今まで農業を担当されたことがないので、そうなると「土壌炭素貯留」「再生可能農業」「自然資本」などのトレンド用語は、ますます馴染みのない方が多いようで、情報発信強化の必要性を感じました。
「土壌炭素貯留(カーボン・シークエストレーション)」は、すでに1997年の京都議定書にも方策として挙がっていましたが、特にここ2~3年程は、脱炭素が一気に加速したこともあって、世界の農業界ではこの話題でもちきり、という風な熱気があります。
また、土壌の豊かさを涵養することに注力する「再生可能農業(リジェネレイティブ・アグリカルチャー)」も、この3~5年で農業界のバズワード。先進的な環境保全型農家からのイニシアチブでしたが、今や大手の食や農関連の企業がこぞって再生可能農業の支援・普及に努める段階に至っています。
また、投資家や企業は、脱炭素に加えて生物多様性へのコミットメントも求められるようになってきており、森林と農業や海洋をまとめて、「自然資本(ナチュラル・キャピタル)」という形で扱う例も増えてきました。
とりいそぎ、用語集の準備など、検討しています!
3 農業ファンドへの興味は、まだカーボンクレジット創出の方法論が確実でない以上、インパクトよりインフレ対策と安定性?
インパクト投資や再生エネルギーなどの脱炭素関連のビジネス化には、皆さんの高い興味をひしひしと感じました。
しかし、農業ファンドの場合、まだなかなか確固としたカーボンクレジットビジネスモデルができているわけではなく、まだ試行錯誤中で時間がかかります。そうなると、なかなか日本の機関投資家さんとしては踏み出すのが難しいようでした。
農業ファンド、特に農地ファンドは安定性が非常に高く、インフレに強いこともあって、足下の経済状況を重ねあわせると、やはりそちらの方面での魅力を押し出すことが良いのかもしれません。
ただ、やはり私としては、せっかくの農業ファンド、安定的な利益を出しつつ、かつインパクトを与えられるとても面白い機会として、もう少し知られるようになると嬉しいところです!