気候変動対策の一つとして、農業からの貢献としては、農地を活用した営農型太陽光発電が期待されています。日本から始まった動きなのですが、海外ではより技術開発と投資の拡大が加速しています。
目次:
1. 農業分野の脱炭素社会への貢献
農業分野は、脱炭素社会に向け、温室効果ガス(GHG)の吸収と削減の両面から貢献ができます。

世界の食農システムから排出されるGHGは2021年時点で、世界の人間活動由来の二酸化炭素排出量の約3割を占めます。こういった食農由来のGHGを削減することは喫緊の課題とされています。
中でも、生産段階の排出の半分以上を占める家畜由来のメタンの排出削減を筆頭として、窒素施肥由来の亜酸化窒素の排出削減、水田由来のメタンの排出削減等は貢献度が大きいエリアです。
排出削減では他に、太陽光発電を農地に設置し、農業生産と発電の二兎を追う営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング、Agrivoltaicsなどとも呼ばれる)による発電過程の脱炭素化へも、国際的な投資展開がみられます。
一方で、農業分野はGHG吸収の面からも、貢献することが可能で、今後の役割が期待されている。最も注目されるのは、土壌への炭素隔離です。農地の土壌管理方法を変え、バイオマスやその他の炭素源の投入を増やすことで、土壌に貯留される炭素を増やすことができることが分かっています。
更に、アグロフォレストリー(林間で作物を生産)・シルボパスチャー(林間放牧)や農地中の原生林や生垣等の保全などがGHG吸収施策として推進されているほか、菌類によるGHG固定、温室への余剰二酸化炭素の供給なども実践があります。
こうした貢献策を活用し、炭素クレジット創出を図ることを、炭素農業(カーボンファーミング)と呼びます。
2.営農型太陽光発電・ソーラーシェアリング・Agrivoltaicsとは?
日本で2004年に世界に先駆けて取り組みが始まった営農型太陽光発電は、GHG排出削減面に対する農業分野の貢献として国際的に注目され、研究・開発や制度整備が徐々に進み、大型の投資案件等が組成されるようになっています。
太陽光発電のパネル設置場所として残された余地が少なくなってきているとともに、森林保全や生物多様性等の観点からも、土地利用を最適化できる形での農業との組み合わせに対する探求が進められています。
ドイツのフラウンホーファー研究機構(欧州最大の応用科学研究所)のソーラーエネルギーシステム研究所は、営農型太陽光発電の研究に集中的にとりくんでおり、同研究所の推計では、2012年に導入電力がわずか0.005GWしかなかったものが、2018年には2.9GW、2021年に14GWと急拡大したという形で示されています。

出所)Fraunhofer Institute for Solar Energy Systems ISE
もちろん、この背景には、世界で等比級数的な伸びを示す太陽光発電があります。太陽光発電では、中国、米国に次いで、日本も世界で3番目の導入実績を誇ります。2021年の導入実績が世界で843GWであり、1MW=1haと仮定して簡単に計算すると、2021年時点で84万ヘクタールもの土地が太陽光発電に使われています。2030年には、これが倍増するという見通しもあります。
世界の土地の、およそ3割が森林で、3割が農地です。既に、減少を続けている森林を、太陽光発電のために切り拓いて開発するというのは、脱炭素の面からも、生態系の保全や生物多様性の面からも、大いに問題があります。一方で、増え続ける人口を支えるためには、農地を減らして太陽光発電施設にすることも現実的ではありません。さらに、農地や森林を大規模に転用するような大型の太陽光発電に対しては、市民からの反対運動も少なくなく、開発許可が下りた後でも、計画が大幅に遅れたり、頓挫する例も増えてきてしまっています。
そういった中で、農地とのデュアルユースが可能という事で、営農型太陽光発電が、過去5~6年ほどで、世界的に非常に注目を集めるようになりました。

フラウンホーファー研究機構の実証研究によれば、太陽光パネルを通常の80%のキャパシティで並べたときに、小麦とかじゃがいもとかの作物、平均で5%~19%程度の減少だったという結果がでています。
日本も、似たような結果が報告されています。
つまり、こういう説明ができます。もし、ある土地があったとして、半分で農業だけ、もう半分でソーラー発電だけをした場合、農業のアウトプットを100、ソーラーのアウトプットを100とします(下図青色)。もしも、同じ土地で、全体を使って営農型太陽光発電をするとすれば、下図の黄色に示したように、農業のアウトプットは160、ソーラーのアウトプットが160になります。
国土・農地は非常に貴重なものなので、デュアルユースによって、土地の生産性をトータルで上げていくことは、国益に叶うのではないか、こういうシンプルな考え方で、その利点が認識されるようになっています。

穀物や油糧種子、じゃがいもなどの耕種作物のほかに、野菜や果物などの園芸作物でのとりいれが進められています。さらに注目されているのは放牧で、家畜が休める日影になる上に、牧草も直射日光に晒されているよりも品質が良くなるといった研究もあります。牛も可能ですが、背丈が低い羊やヤギでの導入が容易として大規模な導入が進んでいます。
3.世界での営農型太陽光発電の展開
営農型太陽光発電は、日本発のアイディアで、日本が先行したのですが、続いて中国、フランス、米国、韓国等が相次いで補助施策や制度整備を進めたことから、この5~6年で認知が急上昇し、世界各国で実証と本格導入・投資拡大が急速に進展しました。
なお、現在、日本では2021年時点で1,007haでの取り組みとなっており、発電量では1GWを上回ってきたところと考えられます。ただ、農地の一時転用許可の年限がネックとなっており、金融機関からの大規模な投資が難しいのが現状です。このため、ほとんどがごく小規模な施設にとどまっています。

中国では、2014年から開始された中央政府による営農型太陽光発電に対する補助と、2017年の農地利用ガイドラインの明確化により、寧夏等の地域で1案件あたり数千haを超える大型投資案件が実施されました。
米国では研究と実証への大型助成が支給され、商業規模での大型投資が進んでおり、既に10GW超の設備導入が進んでいます。
豪州では、放牧とソーラーの組み合わせが先行して、農地投資ファンド等の取り組みがあり、すでに2021年の時点で1.1GWが導入済みとなっています。
イスラエルでは、2021年から、国内100か所で100MWまでを対象に、FITを23年間保証という条件での導入を進めている。
イタリアでは、州政府がワンストップ窓口を作って迅速な許認可を出すほか、中央政府が「エネルギーと機構のための国家統合計画」ミッションM2C2を策定し、11億ユーロの政府拠出でローンと助成を支給し、現状 0.2 GWを2026年に2.0 GWまで引き上げることを計画しています。そのために、ガイドラインを整備、例えば設備の規定や農業収量の監視システムの導入などが定められています。
フランスでは政府が営農型太陽光発電促進のために入札制度を整備する一方、ソーラー発電投資をするRgreen Investと追尾式のソーラーシステムの開発をするSun’ Agriが、Cultivons Domain!というプロジェクトを始動し、10億ユーロの調達を目指している。
インドでは、PM-KUSUMという、モディ首相直轄の農村電化のプロジェクトで、固定価格買取支援が実施されている。
その他、欧州諸国、アジア、中南米、中東、アフリカ諸国など各地で、研究開発と社会的枠組み、設備導入に対する大型補助の支給やその他の制度的支援の導入が進展しています。
一方で、日本でも、営農型太陽光発電で、結局は農地が適切に管理されず、農地としての役割を果たせていないという課題が顕在化してきています。今後、国際的にさらに拡大する中で、共存可能な技術の開発とその管理・監視体制の確立、そのための適切な制度設計が課題だと考えられます。
関連ブログ:
世界の農業分野の脱炭素社会への貢献シリーズ①:農業からのカーボンクレジット創出はテイクオフするか?~土壌への炭素蓄積とメタン排出削減の可能性
小倉千沙
(株)メロス 代表取締役
You must be logged in to post a comment.